#シュトーレントリップ Vol.1 ー田中知紗さんー

カゴノオトは、「1年かけた四万十の旬でつくるシュトーレン」を作っています。シュトーレンを通して出会うことのできた方たちがいます。カゴノオトのシュトーレンを選んでくれた思いをうかがい、その方の生き方の背景をもっと知りたい。そして、ともにいい未来をつくっていきたいと考えて#シュトーレントリップ という企画を始めます。

電話で聞いた、あるお客様のストーリー

カゴノオトのお客さまの半分は、オンラインショップを通じて購入してくださるので、普段お会いすることはありません。でも、お客さまからいただく手紙や問い合わせの電話で、その方のストーリーをお聞きする機会があります。

「シュトーレン発祥の地、ドイツに住んでました。」

「高知が地元で今は県外に住んでいるけど、コロナ禍でしばらく帰れていないんです。」

「亡くなった夫のふるさとが高知ということで、娘が贈ってくれました。」

そんなお話を聞くと、カゴノオトの商品を通して皆さんに喜んでいただけている、少しでもお役に立てていることを実感して、とても嬉しい気持ちになります。シュトーレンは、毎年たくさんの数を全国にお届けしているけれど、注文してくれたお一人おひとりにそれぞれのストーリーがあるんだろうと思うようになりました。

 

障害福祉の仕事という共通点があったかめちゃんと小清水

#シュトーレントリップVol.1。

本日のゲストは田中知紗さん(かめちゃん)です。

かめちゃんとの出会いは、8年ほど前。かめちゃんがスタッフとして関わっていたイベントに参加したのがきっかけです。その時、かめちゃんは障害福祉のお仕事をしていました。私も、四万十町に移住する前はずっと障害福祉の仕事に携わっていて、お話をする中でとっても共感することが多かったのです。『この子らを世の光に』(糸賀一雄/著)という本があります。その本に書かれていた、知的障害がある方々こそが、世の光となり得るという考え方について語り合った日のことをよく覚えています。

2023年3月、春の暖かい雨の日に、四万十町のコワーキングスペースでお話を聞きました。

 

曽祖父が始めた土佐清水市の和菓子屋「かめや」

写真:小清水とかめちゃんが話をしています。

小清水緑(以下こし):初めての試みですが、かしこまらないように、始めます。(笑)いきなりですが、かめちゃんはどうして「かめちゃん」と呼ばれているんですか?

田中知紗(以下かめ):実家が土佐清水市で、和菓子屋をしていました。屋号は「かめや」。私がサーフィンをしていたこともあって、海にまつわるこの名前が気に入ってます。

こし:和菓子のかめやさんは、いつからやってらしたんですか?

かめ:もともとは、私のひいじいちゃんが始めたお店。おじいちゃんは20代で戦争に行って、35歳でビルマで戦死。その後、父が3代目を継ぎました。父は、修行のため10代後半で高知を経て東京に行き、目黒の雅叙園という大きな結婚式場に和菓子を卸すような和菓子店で修行をしたらしい。母が亡くなってからお店を畳んだのが2016年のことです。

こし:歴史ある和菓子屋さんなんですね。

 

毎年5本、シュトーレンの贈り先は

こし:かめちゃんは2016年から毎年、シュトーレンを5本ずつ注文してくださってますよね。私たちがまだ、四万十町の昭和地区でカフェを営むかたわら、冬の予約特別商品としてシュトーレンを作っていた頃から。どうして毎年こんなに沢山の本数を買ってくれているのかな、ギフトなのだとしたら、どんなふうに使ってくれているのかな、と気になっていて、ずっと知りたかったのです。

かめ:5本のうち、4本は大切な人に送ったり届けたりしてます。旦那との出会いのきっかけをくれた人や、旦那の飲み友達、お世話になった親戚のおにいちゃん夫婦、その年に送りたい人など。あとの1本はもちろん自分用!

こし:わあ、そうなんだ。それぞれどんな方ですか?

かめ:一人は四万十市の呉服屋さん。こだわりの詰まったカゴノオトのシュトーレンだったら、お得意様のお客さんにも出してもらえるんじゃないかなと思って。カゴノオトの商品は間違いないと思ってるから、その方には結婚してから毎年送ってます。

こし:ありがとうございます。嬉しいです。旦那さんのお友達にも送ってくれてるんですね。

かめ:そうそう。その人は、食にこだわりがあって美味しいもの好きなんです。結婚してから家族ぐるみでお付き合いがあるので、クリスマス時期に持っていくと、「お、今年も来たな」と喜んでくれる。「今年は材料が変わったらしいよ」とか、ニュースも伝えてます。親戚のおにいちゃんも毎年、私が持っていくのを楽しみに待ってくれてます。

こし:手渡しで持っていってくださってるんですね。すごくありがたいです。

かめ:季節の贈り物にちょうどいいし、いろんな素材を味わえるしね。普段、カゴノオトの発信をFacebookとかで見てるので、安心して贈ることができます。

 

こし:かめちゃんが大切な人へのギフトとして、カゴノオトのシュトーレンを選んでくれている理由はなんですか?

かめ;地元のものを使っているという、作る過程のこだわりがまず一つ。それから、県外から移住してきてくれた人が、自分の育った土地を大事に思って作ってくれてることが嬉しい。そして、私もカゴノオトの商品を購入することで、カゴノオトの前さんとこっしーと繋がっておりたいという思いがある。

こし:いつも年末の早い時期に、来年の予約をしてくださってますよね。来年の予約をいただくのって、「買ってくださっている人の1年後の気持ちも含めてしっかり承らないと。」と気が引き締まるんです。

かめ:毎年、「早く予約しないと売り切れちゃう、絶対先行予約に間に合わなくちゃ!」と思って予約してる。(笑)

写真:カットしたシュトーレンとクリスマス飾りです。

こし:うちのシュトーレンって価格としてはそんなに安くないものなので、買ってくださる方も、想いを込めて送ったり、注文してくださったりしているのかな・・と思うんです。

かめ:3年前だったかな。高知出身で東京にいる友達が、コロナ禍でなかなか帰れないから高知の食べ物を食べたいと言っていて。四万十の美味しいものを送っちゃろうと思って、その中にシュトーレンも一緒に入れました。そしたら、同じく兵庫に住むお姉さんにもお裾分けをしたみたいで、今はそのお姉さんもシュトーレンを買ってくれてるんだって。

こし:自分の知らないところでどなたかが買ってくれたシュトーレンを、今度は別の方が頼んでくれてるなんて、、うれしくて泣けます。

 

最初の一口は、一人だけで夜にこっそり

写真:かめちゃんです。

こし:ご自宅用の一つは、どんなシチュエーションで食べてくれてますか?

かめ:一番最初に開けて食べるのは私。カゴノオトのシュトーレンの味が好きだから、一口目は私だけでこっそりね。そのあと家族で食べる時には、旦那と「去年と味がどんなふうに違うかな?」とか話しながら食べてます。本場のシュトーレンのようにクリスマスまでのカウントダウンもしたいなと思うけど、届いた日すぐには食べずに、とっておきの日を待ってます。

こし:どんなタイミングですか? 「今日だ!」っていうのは。

かめ:こどもが寝て、ゆっくりできる日の夜遅くに。もっと余裕ができたら、チーズやお酒とも食べたいな。

写真:クリスマスの飾り付けとともにカッティングボードにシュトーレンが載っています。

こし:わかりますー。実は、夜中にこっそり食べるという方が多いみたいなんですよ。自分だけのご褒美に。私もこどもがまだ小さいので、その気持ちはすっごくよくわかる。

かめ:自分一人だったら、ほんとは綺麗にセッティングして、いい感じの写真も撮ってSNSに投稿したいけど、そこまでは行きつかない。(笑)

こし:こどもが寝たあとの時間って、ホッとしますよね。

 

カゴノオトの二つの理念

 

こし:私と前くんがこれまでずっと考えてきたことを言葉にして、最近、カゴノオトの理念を作りました。一つは、「カゴノオトに関わるすべての人が豊かになり、出会えてよかったと思える事業を展開していく。」

昨年、シュトーレンお披露目会をやった時に、ブルーベリー農家さんが「普段、お客さんと会う機会がないので、どんな人が食べてるのかわからなかったけど、お客さんと会えてどんなふうに届いてるかわかって良かった」と言ってくれたんですよね。

かめちゃんがシュトーレンを知り合いの方に送ってくれているように、カゴノオトの商品を通じて、ちょっとでもお客さんのお役に立てていると嬉しい。「お客さんからこんな話を聞いたよ」とスタッフにも伝えたいし、生産者さんにとっても、関わって良かったって思ってもらえる事業を続けていきたいです。

二つ目の理念。「カゴノオトの事業を通して出来ても出来なくても認められる社会に貢献していく。」この言葉ってどんなことを想像してくれますか。

かめ:続けていかないかん、成功せないかん、というのが強い世の中やけど、やってみるっていうのも大事ですよね。今回の取材もやってみたいという気持ちで引き受けました。自分の経験をアウトプットしたいという思いがあって、今回、取材を受けて話をすることで自分を知ってもらえるかなと思って。

こし:カゴノオトがやっていきたいと思ってることって、前から同じなんです。ずっと変わってないんだけど、これまでは言葉にすることが全然できなくて。私が障害のある人たちのいる職場で仕事をしていたことと、今カゴノオトでやっていることがどうつながっているのか、私はつながってると思っているけど、言葉にして人に伝えてないから誰にもわからない。それをなんとか言葉にして外に伝えていく。「なんのためにカゴノオトをやってるのか」をもっと表現していかなきゃいけないなと思っています。

 

人と人を繋ぐ、点と点を繋ぐ。

こし:かめちゃんは今、どんなお仕事をされていますか。

かめ:ファミリーサポートセンターの職員です。今、都会ではなかなか保育園に入れないお子さんもいるし、自分で子どもをみたいけど自分の時間も欲しいって思うこともありますよね。核家族のお母さんは「自分が病気になった時どうしよう」とか、「喫茶店に行きたいけど、その間、知り合いに頼むよりお金を払って気楽に行きたい」っていう人もいる。お子さんを預けたい人と、講習を受けて有償ボランティアで援助したい人を繋げる仕事をしています。

こし:コーディネートがお仕事なんですね。

かめ:預かる側の人は、退職して時間があったり、元々こどもと関わる仕事をしていたり、思いのある人が多くて、そんなボランティアさんたちに助けられていますね。他の団体と連携したり、情報をシェアしながらやっています。

こし:私もファミサポを使ってます。土曜日はお店があるので、午後に子どもを見てもらう日があります。子どもを見てもらうには、もしもの時の保険とかもあるので安心。すごくありがたい制度ですよね。

こし:人と人を繋ぐ、点と点を繋ぐ。マッチングをする仕事をされていて、それがかめちゃんの根幹にあるのかなと思いました。福祉の仕事って、何かのサービスや人と利用者さんを繋げる「黒子」という側面があると思う。利用者さんがより良い生き方をしていけるようにどうすればいいか、そこにサポートする側の色はなくてよいと思っていたけど、そうじゃないなと今は考えています。利用者さんはお客さんで、サービスの受け手であるという考え方が今の時代の流れだけど、そこに専門性を持った職員の人がいることで、支援の仕方がそれぞれ変わってきますよね。

かめ:支援する側の色って出るよね。私は、音楽や、何かを創ることが好き。そういう土台があって、福祉の前職では、潮風のキルト展に作品を出品することを思いつきました。キルトの作品をただ見にいくのではなくて、利用者さんが自分で作って出展する。すると、自分が作った作品を誰かが見てくれる。結果的に賞をもらえて、そのことが嬉しかったけん、また出したいという気持ちに繋がるし、そこから交流が生まれる。

こし:かめちゃんがいたから、できたことですよね。今もその思いを持ち続けて、ファミサポをやってるんですね。

かめ:自分も実際に子育て中で、上の子をファミサポに登録してるけど、奥が深いなと思います。いろいろな想いを抱えてるお母さんたちもいる中で、今までの経験が活かせる場面もあるのかもしれないね。

こし:ファミサポって、何かの時の安心になる。それってすごい価値だと思います。

かめ:今回の取材を受けるにあたって、こっしーのメールの中で、「今も人に関わるお仕事。きっとかめちゃんの思う根っこのところは私と同じ思いなのかなと想像したりします。」というのを見た時、泣くのを止めるのに必死だったの。憎いこというな、って。根っこがないと花が咲かんもんね。自分らしさを繋げていきたいと思うと同時に、繋げて作ってくれる人が周りにたくさんいることのありがたさを改めて思いました。

 

自分らしさを繋げていく、その先に。

かめちゃんとお話しさせてもらった中で、何をするにも「自分」というものの存在を明らかにさせていくということが大事だなと改めて思いました。

かめちゃんのお仕事も、私が今やっているカゴノオトの仕事も、「自分らしさを繋げていく」ことのひとつ。仕事の内容は違うけれど、もともと持っている思いは近く、それを表現する方法が異なるだけなのだと思います。

シュトーレンを製造して、お客様にお届けするまでの過程の中で、障害を持つ方にラッピング用の箱を組み立てる作業を担っていただいています。こうやって、いろいろな方の手を通して作っていく四万十のシュトーレンを、大切な方への贈り物として使ってもらえるのはとてもありがたいことです。かめちゃんの言葉を借りると「自分らしさを繋げる」ことで、それを「繋げていってくれる人が周りにたくさん」増えていって、点と点が糸のように繋がっていく。

贈り先の方にも、カゴノオトのエピソードを伝えてくださっていると聞いて、ますます大事にシュトーレン作りをしていこうと改めて思ったのでした。

協力してくださったかめちゃん、かめちゃんの旦那さんやお子様たち。

みなさまありがとうございました。

 

 

撮影:羽屋戸 橋道

編集:刈谷明子

2023年5月26日

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