【あずってあずって】
「あずる」とは広島弁で「大変な思いをして何とかする」とか
「大変だけど無理矢理やる」という感じの言葉で
「もう、あずってあずって大変だったよ。。」というように使います。
山間部の集落の兼業農家の長男として生まれた僕は、
幼い頃から大人たちが山あいの田んぼを耕す姿を見て育ちました。
傾斜地に連なる小さな棚田は道幅も狭く、大きな農作業の機械を入れるのは難しくて、
一歩間違えば大事故に繋がる可能性もあります。
季節によっては収穫時期に台風と重なって稲が倒れたり、
最近ではイノシシやシカも出没するようになって、毎年「あずって、あずって」大変な思いをしながら
米を育てていました。
収穫した米は「カントリー」と呼ばれる大きな乾燥設備に運んで乾燥してもらいます。
乾燥する前には米の簡易検査があって、少量をサンプルとして取り出して検査するのですが、
そこでこんなやりとりがありました。
検査の人「早く、倒れたねぇ」
父 「まぁ、、」
タオルを頭に巻いた父は吹き出す汗を押さえながらそう答えていましたが、
僕はなんだかとても悔しかったのです。
日照時間も少なく、風で倒され、イノシシにもやられた米は
色にバラつきがあってまがいなりにもいいできではなかったのかもしれませんが
「あんなにあずってあずって育てた米なのに!!キィー!」と思いました。
全ての商品やサービスは自分の手を離れた瞬間から市場競争に晒されて
「品質」や「数量」や「価格」など幾重にもふるいにかけられていきます。
市場とはそういうものだと頭では分かるし、そこに異を唱えるつもりはありません。
ただ、ふるいにかけられても落ちなかったもの、残ってしまったものに目が行くし、そこが気になります。
そのふるいに残ってしまったものの中には大変さだけでなく、楽しさもあるし、
その人の背景や日々の暮らしもあるように思います。
昔だったらそれらを届ける術はありませんでしたが、
今はインターネットのおかげで知ってもらえるようにもなりました。
今、自分たちがシュトーレンを作りながら農家さんの背景をお伝えしたり、
四万十の日常をお伝えしてるのは、あの日の悔しい思いも影響しているのかもしれません。
今日も読んで下さってありがとうございました!
今日もよい一日を。
前でした。
2021年1月27日